現 場 探 訪
いろいろな建築現場へ行き、現場がどの様なものか、簡単に説明します。
スポパーク松森天井落下事故調査(私的)2005.8.17
孝勝寺五重塔現場見学記
スポパーク松森天井落下事故調査(私的)2005.8.17
状況報告 建物概要 天井 岩綿吸音版?をホッチキスの針(フィニッシュネール?)のような接合鋲で石膏ボード下地材に取り付け二重張りの天井になっている。さらにその石膏ボード下地材は井桁に直行に組んだ鋼製野縁にビス止めしている(井桁に組んだ鋼製野縁は、お互いをクリップと呼ばれる薄板加工の金物で交差部分を止めていた)。そして、鋼製野縁は吊ボルトによって建物本体に吊り下げられている(部分的に吊ボルトの中間に補強材と思われる横材が見られた)。 天井の平面形状 落下した天井はプール全体を覆い、ほぼ半円形の大きな天井である。その中にあって、ウォータースライダー付近と反対側の機械室?付近は平面的凹凸があり、その平面形状にそって、天井には入り隅と出隅の不連続な部分がある。 現場状況 建物本体の構造体は、鉄骨の柱梁や外周の斜材を目視で確認する限り、損傷は見つけられない。さらに、屋根面の平面を保持するためのブレースは目視ではあるが健全であったと思う。また、足元で斜材の接合部を確認したが、取り付けボルトの一部にペンキのはがれが見られた程度で、問題になるような塑性化によるものではない。また同様に外壁やサッシ等においても建物の変形に伴う損傷は確認できなかった。 一方、室内に目を転じると、プール上部の天井は、一部を残して無残にも落下していた。その他の部屋の天井は、比較的面積の大きい受付ロービーや和室休憩室、さらに小割りにしたトイレ等確認できる部屋は無傷であった。 ではどうして天井が崩壊してしまったのだろう。 本建物のラーメンは、屋根面の勾配に沿って傾斜した梁によって形成されている。また、天井勾配は屋根勾配より緩やかな勾配のようである。もしそうであれば、屋根の低い部分は天井と梁のレベル差はそれほどないのに対し、高い部分では梁と天井に大きなレベル差が生まれているはずだ(高い屋根側の天井懐内部には大きなダクトが見える)。 仮に高低差があっても剛床の屋根面(梁そのもの)の水平変位量は一定なので、屋根面から離れれば離れるほど(下方に)、その水平変位量は高さの比で小さくなるはずである。したがって、梁のレベルに近い位置に取り付く天井(外周部付近の低い屋根の部分)の水平変位量と、梁のレベルより離れている位置に取り付く天井(中央付近の高い屋根の部分)の水平変位量は違うことになる。つまり、傾斜ラーメンにほぼフラットな天井を設置すると、同一の天井面の水平変位量は場所によって違うことになる。その上、平面的に不規則な出隅の天井の変位はさらに複雑な動きを見せるはずだ。 実際に被災建物を見てみると、低い屋根に近い壁面には、天井材もしくは野縁によってこすられたような削り傷が見られる(高所なのではっきりしないが、ウォータースライダーの上部壁面と機械室付近の出隅には見える)。これは、水平変位量の大きな位置に一致している。もし仮定が正しければ、低い屋根周辺で天井と壁の衝突が発生し、野縁や仕上げ材の座屈や衝撃力で、クリップがはずれ、天井の崩壊がはじまり、引きずられるように連続する他の天井も徐々に崩落したのではないだろうか。 実際の崩壊のメカニズムは今後の調査結果を待つことになるが、あれほど大規模な天井崩落なのに、建物内におられた方々のけがの状態が、幸いにも比較的軽傷であったことを考えると、全体がいっせいに落下したのではなく、ある場所を引き金にして、徐々に崩落したと思われる。 現場に無残な姿で散乱する大量の薄板のクリップは、直行する野縁と野縁受けを結合していたものだろう。お互いを結合するためにフラットだったプレートを鍵型に曲げ加工したものであるが、ほとんどが引っ張られて伸びきった状態で転がっていた。 クリップの接合は、単純に引っ掛るという言葉で表現するのが合っているような取り付けであったと思う(一般的に行われている)。したがって、クリップの支配面積で天井自重が下方に作用している力であれば耐えられると思うが、地震動のように繰り返しの荷重を上下左右に受けた場合、野縁または野縁受けからはずれる可能性大きいと思う。また、本建物のように野縁受けが曲線で場所によっては野縁との交差角が直角にならない場合は、クリップの支持に緩みができる場合がある。 したがって、伸びて広がる可能性のある、クリップ接合による天井の改善を早急に求めたい。さらに天井や外壁など人的被害の可能性の高い仕上げ材は、専門家の構造解析の義務化を求めたい。 以上書いた報告は、短時間の調査と仮説に基づく一私見ではあるが、私は事実として人間を守るべき建物が凶器となった現場を目撃した。 夏休みをプールで楽しく過ごしていた子ども達は、天井崩落の中でどのような恐怖を体験したのだろうか。外に避難し立ちすくむ親子に、「今後二度とこんなことが起こらないから安心して」とはいえない技術者である自分に情けなさを感じた。 過去に大きな地震が起きるたびに発生する仕上げ材の落下は、結局なんの教訓にもなっていないということなのか。既存不適格建築物の構造体の耐震診断は順調に進んでいるのに、仕上げ材はなかなか進まない。ましてや今回の建物は、最新の基準に基づいて、つい最近竣工したばかりである。 今年の3月、ある行政に避難所になる体育館の仕上げ材の耐震診断を要求したが、骨組みの診断が精一杯で、仕上げまで予算が回らないと言われた。世の中には、落下する危険な仕上げ材がたくさんあるということだ。 また以前こんなこともあった、宮城県北部地震の二ヶ月前の5月、多少大きな宮城県沖の地震が発生したが、ある学校の教室の天井が一部落下した。このときとった処置は、現状復旧と称して落下した天井部分のみを復旧したらしい。しかしその二ヵ月後、宮城県北部地震で同じ天井がさらに広範囲で落下した。つまり、根本的な対策を講じないまま外観だけもとの姿に戻すのである。仕上げ材に対する認識はこの程度である。もし、あの時天井の下で子どもが勉強していたらどうなっていたのだろうか。 スポパーク松森の天井落下は、設計や施工性の問題として論議される可能性があるが、私は、法整備も含めた、行政側の仕上げ材に対する認識の甘さに起因していると考えている。 今回の事故で、精神的ダメージを受けた子どもたちは、建築物を信用してくれるのだろうか。今後私たち構造技術者に課せられた責任は大きいと思う。
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